2080-05説明が終わり、会議室に残っているのは賢治達強化外骨格隊の小隊長達だけになっていた。司令は小隊再編のための資料を取りに行くと言って一度出ていったが、 すぐに戻ってくるだろう。 わずかの時間であったが、賢治達は先程説明された内容について話し合っていた。 「あの子達が有機生命体兵器とはな」 山本が苦笑しながら言った。 「技術的には製造可能だと思っていたが」 「まあ、俺もそれは承知してるが……何もあんな格好に作る事ないんじゃないか?」 「俺はいいと思うぜ」 と、鈴木中尉が口を挟む。 「華がないこの部隊も、少しはマシになるだろ」 「案外、それが目的だったりしてな……おっと、司令が戻って来たぞ」 司令が会議室に入ってくると、各小隊の再編内容が発表された。 「PEGTH-F-03、か」 椙山小隊に配属される事になったのは、「03」と番号を付けられた少女だった。 書類の写真を見て、賢治は彼女がヘリポートで目が合った少女だと気づく。 「どうした?写真をじっと見つめちゃって」 振り向くと、鈴木中尉が後ろから覗き込んでいる。 「いや……何でも無い」 「そうか?気に入ったのなら別に隠すこともないだろ。 しかし、俺はこういう事には運が無いな」 鈴木の隊に配属されたのは、PEGTH-F-06。 今回昌吉基地に来たフェリスの中で唯一の少年である。 「いいじゃないか、資料によると06のシミュレーション成績は優秀だぞ」 と、山本がいつものように笑いながら鈴木に話しかけた。 「……まあ、優秀な部下は嬉しいけどな」 そう言う彼の表情は心から喜んでいるようにはとても見えない。 「ああ、そうだ。レポートの事を言うのを忘れていた」 書類を纏め、会議室から出ようとしていた司令が戻りながら言った。 「何でしょうか?」 「フェリスに関するレポートは戦闘時の物だけでいいからな」 それだけ言って、また司令は出て行ってしまった。 「……やっぱり、あの格好は意図的なんだな」 鈴木が呟くようにそう言ったが、それに答える者はなかった。 ◇ PEGTH-F-06と呼ばれる少年は、与えられた自室のベッドに横になっていた。 まだここに来て一日も経っておらず、するべき事も与えられていない。 (それに、あれだものな) 彼は窓の方に視線を向ける。 そこから見える景色は基地の人工物ばかりで面白みも何も無い上に、 ガラスの外側には頑丈そうな鉄格子が嵌められていた。 この部屋は他の一般兵と同じ兵舎にあり、内装も同じである。 しかし、鍵が外側にしか付いていない点と、窓に鉄格子が付いている点で違っていた。 (つまり、牢獄。研究所に居た時と変わらないな) 彼はASDF配属にわずかでも自由の希望を抱いていたが、この部屋を見てそれは消えてしまった。 (それなら、研究所の方がまだいい。あそこには、姉さんがいた) 研究所の職員は皆冷たかった。 彼が話しかけても、必要としないことは答えてくれない。 彼と同じ境遇の子供達も、実験以外で一緒に居る事はなかった。 そんな中、一人だけ彼に話しかけてくれるヒトがいた。 研究員でありながら、時間があれば彼と話をしてくれた。 何気ない会話や、勉強の事等、何でも。 その一時が彼にとって何よりも大切な時間だった。 何故彼女は優しくしてくれたのか。 正確にはわからないが、彼はそのヒトが自分と同じだったからではないかと思う。 勇気を出して訊いてみたかったが、ここに来る前に挨拶をする事は出来なかった。 (……必ず生きて帰る。アヤ姉さんに会うために) 彼はアヤ――フェリスでありながら研究員であった女性――の顔を思い出しながら一人決意した。 |